骨の放射性炭素年代測定

骨試料はAMS放射性炭素年代測定のために最もよく利用される物質です。これは、考古学研究においては動物や人間の骨が研究対象となることが多いという理由です。

骨の考古学的な調査と放射性炭素年代測定は先史時代について多くのことを解明してきました。また、古代文明についてもより掘り下げた情報が骨の放射性炭素年代測定により明らかになっています。

骨の成分について

骨は30%の有機質と70%の無機質で構成されています。  有機質はタンパク質で、無機質はリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、フッ化カルシウム、水酸化カルシウム、クエン酸塩で構成されるハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウム)です。主にコラーゲンから成るタンパク質は骨に強さと柔軟さの両方を与え、ハイドロキシアパタイトは、骨の硬い構造の基となります。

理論的には、有機質でも無機質でも年代測定が可能です。しかし無機質であるハイドロキシアパタイトは格子状のオープンな構造のため、地下水中の炭酸塩の影響を受けやすく、年代測定に適しません。ハイドロキシアパタイトは酸に溶けるため、希酸による前処理では汚染した炭酸塩を取り除けません。

ラボでは、有機質であるタンパク質を抽出して骨試料のAMS年代測定を行います。タンパク質は比較的、酸に溶けにくく、ハイドロキシアパタイト成分や他の炭酸塩と分離が可能だからです。

骨試料のタンパク質成分の保存状態が悪く、温かい場所にあったり、カビやバクテリアに侵されているためにタンパク質の分解が進んでいる場合は、アミノ酸の種類別に年代測定を行うことが可能です。それぞれのアミノ酸で同じ年代が得られるかどうか検証します。少量の試料で測定できるため、この方法はAMS測定機関では実行可能です。しかしこの方法を行うためには、かなりのコストと時間がかかります。古い骨試料の場合ごく僅かな汚染が大きな誤差を引き起こしてしまうため、よほど特殊な事情がない限り推奨いたしません。

骨試料の年代幅

どの試料の年代幅も、個体の成長や生物圏と相互に関わりあっていた時間を反映しています。骨試料も同様で、生物圏との炭素交換を行わなくなるのは、その生物が死んだ時です。したがって、死んだ時点でのC14年代は0です。

骨の放射性炭素年代測定測定結果は、年代のオフセットの必要はありませんが、骨の試料には年代幅があります。研究文献によると、骨は死ぬまで生物圏から炭素を吸収するこをやめません。人骨にはおよそ30年、動物の骨にはそれよりも短い回転時間があります。

骨の年代幅のデータは必要なものとなります。年代測定の結果、そして暦年代に放射性炭素年代を変換する方法に影響を及ぼすからです。

測定結果に影響を及ぼしかねない炭素を含む物質は全て汚染物質とみなします。骨試料は、埋没環境により他の有機物と接触する機会が多いので、もっともコンタミネーションの影響を受けやすい試料種といえます。

典型的なコンタミネーションは、フミン酸やフルボ酸で、これらは植物や動物の組織の微生物分解によって生成される土壌中にある有機酸です。研究文献によると、その他にはポリフェノール、多糖、リグニン、腐食タンパク質などが汚染源となります。

掘削地によってはライムストーン(石灰岩)の影響を受けることもあります。これらの汚染は、自然要因によって骨に付着した、自然由来の汚染とみなします。

一方、人為的な汚染は、試料のサンプリングや保管中にしばしば起きます。ラベリングする際の動物性の接着剤の使用は、年代測定に供する試料には厳禁です。動物性の接着剤は骨試料と化学的には同一なため、年代測定結果が不正確なものとなります。
掘削後にコンタミネーションの要因となるものには他に、殺虫剤、ポリ酢酸ビニル、保存剤としてのポリエチレングリコール、タバコの灰、紙でできたラベルや包装紙があります。

汚染が結果にどのように影響するかは、汚染の度合いや種類、骨と汚染源の相対年代によります。

ライムストーン(石灰岩)起源の炭素が前処理で完全に取り除かれない場合は、年代は古くシフトします。石灰岩は地質由来であるために、どの考古学的サンプルよりも年代がずっと古くなります。

フミン酸やフルボ酸による汚染も同様に、不正確な結果を引き起こします。有機酸を生成した有機物の年代によって、骨の実年代よりも年代を古くも新しくもシフトさせます。

骨は現代由来の植物根の侵入などにさらされることもあります。現代炭素は骨の年代を新しい年代にシフトします。

通常、無限の年代を示す汚染物質の混入は、骨の実年代よりも大幅に古い年代を結果に加えますが、一方現代炭素は実年代よりも格段に新しい年代にシフトさせます。

こうした不正確さを防ぐため、年代測定前に全ての骨に対して前処理を行います。

物理的前処理とは、年代測定前の化学物質を使わずに行う処理です。例としては、植物根の除去や粉砕してサンプルサイズを小さくすることなどがあります。

ラボでは、明らかな汚染がないか目視で確認します。

実験用のピンセットあるいは鉗子を用いて植物根を除去します。そして、外科用のメスや歯科用のドリルを使って、骨の表層の汚染を取り除きます。

試料の硬さもチェックします。骨の柔らかさは、AMS年代測定に必要なコラーゲンが不足していることを示唆しています。

目に見える範囲の汚染の除去が済んだら、すりこぎとすり鉢を用いてサンプルを粉砕します。表面積を増やすためサンプルサイズを縮小させ、化学処理に供します。

ラボによって、化学的前処理の方法は多少異なりますが、通常は同じ化学物質を用いて骨試料を取扱います。

骨の鉱物成分(リン灰石)が除去され、コラーゲンが分離するまで、繰り返し冷希塩酸で粉砕された骨を処理します。 この操作の段階でも、微細な植物根などの存在を調べ、 存在する場合は除去します。 

with alkali (アルカリ使用)の場合は、二次的有機酸の除去を確実にするため、水酸化ナトリウム(NaOH)でコラーゲンの処理を行います。 試料の保存状態が良くない場合は、without alkali (アルカリ不使用)となり、アルカリ処理によって測定可能な有機物が全て除去されないように、アルカリ処理を省略します。