放射性炭素年代測定は、試料が放射崩壊以外のプロセスでC14濃度が変化していないことを前提としています。この前提は、実際の試料にはなかなか当てはまりません。ほとんどの試料はそのC14濃度に影響を与える可能性のある付着物などを包含しています。C14濃度に影響を与えるすべての炭素化合物がコンタミネーションとなりえます。
試料の前処理について理解することは、それが最終的な年代に直接影響を与えるので非常に重要です。前処理に関するご質問などがございましたご連絡ください。
Charcoal, Wood, Peatなどはacid-alkali-acid(AAA)処理が一般的です。
Sediment, Soilは acid wash が一般的です。
Shellなど無機炭素(炭酸塩)試料はacid etching処理が一般的です。
品質保証(QA)がなければ、データが正しいか、一貫性があるかどうかわかりません。あらゆる局面において追跡可能でなければいけません。5年後にクライアントが論文を出版する際に質問を送っていただいても答えられるよう記録しておかなければなりません。何年たっても、測定が正しく行われたことを証明できる記録を残しておかなければなりません。
コンタミネーションには、自然要因のものと人為要因のものがあります。自然要因のものは試料を取り巻く環境に関係があります。例えば、骨は周囲の石灰岩や、土壌起源の有機酸の影響を受ける可能性があります。また、木材や植物に、他の植物の根が侵入することもあります。人為要因のコンタミネーションは、試料の採取・保存・梱包の過程で起こる可能性があります。例えば、炭素を含むマーカーなどで直接試料にラベリングを行えば、汚染の原因となります。骨の試料に付着した膠は汚染の一例です。殺虫剤、たばこの灰、紙による梱包などもコンタミネーションの原因となる可能性があります。
自然要因によって汚染された試料を適切な処理を行わないで測定すると、正しい年代を与えません。コンタミネーションによる、年代のずれ加減は、汚染の種類、量、試料の年代と汚染物質の年代の関係などによって変わります。非常に古い石灰岩起源の炭素による汚染は、年代を古くします。 フミン酸、フルボ酸など動植物起源の物質による汚染は、年代を新しくも古くもする可能性があります。植物根の侵入、混入は通常年代を若くします。汚染の度合いが放射性炭素年代の正確さに影響を与えます。一般的にC14を含まないような古い炭素の汚染により年代は古くシフトし、現代の炭素の汚染により年代は新しくシフトします。
そういった、コンタミネーションは、C14を測定する前に、取り除かれていることが必要です。その工程を、”試料の前処理” といいます。
放射性炭素年代測定の分析機関は、様々な試料を受領しますが、すべての物質が年代測定可能なわけではありません。放射性炭素年代測定は、生物起源の炭素を含む物質、例えばWood、Charcoal、骨、貝、Peat、繊維などが対象となります。直接、金属や石を放射性炭素年代測定することはできません。すべての試料に万能な前処理方法は存在しません。試料の特性、可能性のある汚染物質のタイプなどにより、試料ごとに前処理方法は異なります。前処理方法には、物理的な前処理と化学的な前処理があります。
物理的前処理は基本的に、化学薬品などを使わずにコンタミネーションを取り除きます。例えば侵入した植物根はピンセットで丁寧に取り除きます。これは乾燥されたピートのように植物根が容易に分別できないような場合を除き、放射性炭素年代試験所において行われる直接的な方法です。他の方法としては、適切な器具を使い試料の周囲を取り除いてしまいます。歯科用のドリルや、外科用の手術器具などの医療用器具はよく使用します。視覚上、全ての汚染物質を取り除いた後、試料は化学的な前処理を行うために粉砕し表面積を増やします。貝、石、骨は乳鉢・乳棒で粉砕されます。炭化物はシャーレ内で粉砕を行うことがあります。木試料はミル内で細かく削ったり、その他の方法で粉砕されます。土壌の試料はふるいわけにより選別を行います。
物理的前処理を行った後、さらに不純物を取り除くために化学的前処理を行います。多くの放射性炭素年代測定施設は、同一試料種に対して同じプロトコルによる前処理を行っていますが、Beta Analyticでは試料ごとに最適な条件で前処理を行います。
化学的前処理の詳細はこちらをご参照ください。 More
炭化物、木試料、ピート、繊維などはacid-alkali-acid (AAA)が適用されます。一部の文献ではこの方法はacid-base-acid (ABA)と記載されています。AAA処理は、塩酸(HCL)による洗浄、水酸化ナトリウム(NaOH)による洗浄、塩酸(HCL)による洗浄、の順で行われます。
古い木試料や、ひどく汚染された木試料には、セルロースを抽出した後にAAA処理を行うこともあります。
試料がアルカリに溶解してしまい測定可能な有機物が無くなってしまうような場合は、酸処理だけで測定を行う場合もあります。
骨試料は冷塩酸を用いてコラーゲンを抽出します。その後二次的な有機酸を確実に取り除くためにアルカリ処理を行います。骨試料の場合も、保存状態が良くなくアルカリ処理に耐えられない場合は、その処理を行いません。
貝殻試料など炭酸塩の試料は、酸によるエッチングを行います。
最終更新:2020年6月