海洋リザーバー効果

  • 放射性炭素年(C14)は定常的に大気中に供給されます
  • 理論的には、放射性炭素は大気圏、海洋圏、生物圏で平衡状態にあります
  • 海洋リザーバー効果によって、陸域の生物と海域の生物の放射性炭素濃度は異なります
  • 世界各地における海洋リザーバー効果の補正値がデータベース化されています
  • 海域生物の放射性炭素年代測定では軟体動物の貝殻が最も多く使われてきました
Shells

放射性炭素(C14)は大気圏上層で、宇宙線の二次中性子と窒素の反応によって生成され、生成されたC14は大気中でただちに酸化され二酸化炭素として地球圏の炭素サイクルに組み込まれます。そして、C14は他の同位体(C12,C13)と共にあらゆる生物、植物に取り込まれるのです。

放射性炭素年代測定は、平衡状態によって、生きている生物のC14濃度が一定であるという仮定のもとに成り立っています。また、C14の生成と崩壊も平衡状態にあるので、大気中のC14濃度は過去から現在まで一定であると仮定されています。

しかし、様々な要因があり、上記の仮定は現実には成立しないため、放射性炭素年代測定では、年代を算出する際、上記の仮定の成立を阻む要因を考慮する必要があります。

全地球的な放射性炭素のサイクル

大気圏、海洋圏、生物圏は異なるC14のリザーバー効果を持ちます。大気中のC14は、CO2として海洋に溶け、植物は光合成によって取り込み、動物の場合は、食物連鎖によって取り込みます。

海洋において、C14の濃度は表層と深層で異なります。したがって、海洋生物のC14濃度は、どの生物においても一律というわけではありません。

弊社のようなが放射性炭素年代測定を行う際、様々な付随する要因を考慮しなけれならないのですが、そのひとつとして試料がどのような環境に生息していたかということがあります。特に、試料が陸域の生物か、海域の生物かということは重要です。両者は同じ年代だとしても、異なるC14濃度を持っているからです。
海洋表層の海水に存在するC14は、2つの起源を持ちます。ひとつは、大気CO2からくるもの。もうひとつが、海洋深層水からくるものです。海洋深層水のC14はあるレベルまで放射崩壊した後、表層水と混合します。海洋は大きな放射性炭素リザーバーと言われており、関連する研究によれば、表層水のリザーバー効果は10年程度と見積もられています。
同時代の陸域の生物と海域の生物は放射性炭素年代では平均的に約400年の差があります。海域の貝などは陸域の植物などにくらべ古いC14年代を示します。
さらに、海洋のリザーバー効果は、地域によっても異なるということを考慮しなければなりません。深層水の湧昇の影響が緯度によって異なるからです。
J. Mangerud の1972年、古い無機炭素を含む深層からの湧昇水の不完全な混合を要因とするC14濃度の海洋リザーバー効果による地球的な変動によって、貝殻の炭酸塩の見かけC14年代が非常に古くなるという論文を発表しました。

海洋リザーバー効果の決定

Sean Ulm の2006年のレポートによると地域的な海洋リザーバー効果の決定方法には以下の3つの方法があります。

  • 1955年より前に生きていた、既知年代の海洋生物の放射性炭素年代測定
  • 考古学的に同時代であることが完全に立証されている貝殻とCharcoalの放射性炭素年代測定
  • 放射性炭素年代測定とウラン-トリウム年代の比較

海洋リザーバー効果のデータベース

海洋リザーバー効果を考慮しないと、海域の試料と陸域の試料の年代を比較することはできません。世界の各地域における海洋リザーバー効果の補正値は Marine Reservoir Correction Database としてデータベース化されています。(Institute for Aegean Prehistory基金による)
また、このデータ ベースは、Marine 2013 データセットを使用して、CALIB (Stuiver and Reimer, 1993)あるいはOxCal (Bronk Ramsey 1995) などの暦年代較正プログラムと共に用いることを企図しています。

ローカルリザーバー効果

Delta±Rは海洋性の炭酸塩試料のみに適用されます。較正プログラムでは、海洋性の炭酸塩試料の年代によって、200年から500年の補正がグローバルリザーバー効果として自動的に行われます。
Delta±R はグローバルなリザーバー効果の補正に加えて、地域的なリザーバー効果の補正を行うために必要な値です。Delta Rがプラスの場合(ex. ΔR=200+/-50)、年代はより若くなり、マイナスの場合(例: ΔR=-200+/-50)はより古くなります。 Delta Rをお知らせいただくときは併せてその誤差(Delta R Err)もお知らせください。
下記レポートは、C14 年代1000+/-30 BP に対してDerta R = 0+/-0 の場合とDelta R= 222+/-35 の場合の較正結果の違いを示しています。

calibration

硬水効果

帯水層にライムストーン(石灰岩)がある淡水系や、湧水から年代の古い地下水の供給がある淡水系では、炭酸塩のAMS年代が実年代より古い年代を示すことがあります。 貝殻の形成に用いられる溶存無機炭素(DIC)や炭酸塩コンクリーション沈殿中のDICの年代はライムストーンからの古いDICによって、実際の形成年代よりも古いものになります。 こうしたライムストーン由来の影響を”hard water effect (硬水効果)”と言います。 年代の古い水が流れる利水システムも古いDICの存在により同様の効果をもたらす場合があります。 こうした現象は共に”reservoir effect (リザーバー効果)”と分類されます。
リザーバー効果によるオフセットを知るための最良の方法は貝殻と関連するリザーバー効果の影響がない有機物を測定することです。 一般的に炭酸塩試料に近接する木炭や種子が、放射性炭素年代の比較、較正に利用されます。
研究者がオフセットについて認識していない場合は、関連文献を検索し、調査地に水を供給している地質的なシステムについて理解することをお薦めしています。

軟体動物の貝殻

軟体動物の貝殻は海域の生物の放射性炭素年代測定では最も多く使われてきました。貝殻の炭酸塩は非常に環境中で化学的に反応・交換が起き易いので、C14年代の正確度に影響を与えることがよくあります。貝殻のC14年代には海洋リザーバー効果はもちろんのことライムストーンなどの影響によるHard Water効果も考慮しなければならない場合もあります。